■いい精神科医に出会うのは難しい
都内在住で大手印刷会社勤務の斉藤誠一さん(50代、仮名)は4年前、職場の人間関係で悩み、朝起きるのが辛い日々が続いていた。ある日、妻に促されて地元の駅前クリニックを受診したところ、A医師にうつ病だと診断され、薬物療法中心の生活になった。
記事の管理の痛み
クリニックには月2回通院した。帰宅途中に寄れる便利さもあったが、診察まで4時間待たされることもしばしば。しかも、「さんざん待ったのに診察時間はわずか5分で、聞かれることは『薬が効いたか効かないか』ばかり。『効かない』と答えると、どんどん薬が足された。別の医師の診察となることもあり、薬が変わることもあった。医師によってなぜこんなに言うことが違うのかと、疑問に思った」(斉藤さん)。
なかなか治らないことに不安を感じた斉藤さんは都内にある病院に入院治療を考え、A医師に相談したら「あなたはそこまでじゃない」と言われ、結局5分診療と薬物療法の日々が続いた。
「もうどうしていいか分からない」
途方に暮れ� �いた斉藤さん。心配した義姉が知り合いの医師を紹介してくれて、その縁で田島治・杏林大学保健学部教授に出会う。気がつけば、A医師の診察を受けてから約1年が経ち、6つの病院を渡り歩いていた。
うつ病のビデオゲームの子供たち
「A医師と違い、日常生活に関する質問が多く、私のことを理解してくれているという安心感があった。そして何より、減薬治療してくれたことで、自分が回復に向かっていることを日々、実感できた」(同)。半年後、念願の職場復帰を果たし、現在のところ、再発もしていない。斉藤さんは最後にぽつりと、こんな言葉を漏らした。
「いい精神科医に出会うことがこれほど難しいとは思ってもみなかった」
日本には精神科医が8000〜1万人いるといわれる。だが、うつ病治療に関しては、斉藤さんのように「名医を求めてさまよう患者」が少なくない。
国の肥満
病気の境界を広げる"疾患喧伝"という、製薬会社の販売戦略の関係性も指摘される。グラフのように副作用はあるが従来の抗うつ剤よりも安全性が高いとされるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が日本でも承認された1999年以降、市場規模拡大とともに患者数は急増中だ。SSRIは現在、うつ病治療で重宝されるが、服用の仕方次第で、他人への攻撃性を高めるといった副作用の問題がある。2009年5月には厚生労働省が医師や患者に注意喚起を行っている。
本稿では抗うつ薬が直ちに悪いと主張するつもりはない。「薬が必要な患者は確かにいる。多剤であっても合理的であれば問題ない」(田島氏)し、「医師が適切な知識のもとで使えば、過度に副作用に脅える必要はない」(宮岡等・北里大学医学部精神科教授)からである。だが、精神科医によって処方の仕方に"ばらつき"があるのも事実。宮岡氏は「うつ病の症状だけでなく、生活環境やもともとの性格など、詳しく尋ねてはじめてそのうつ病に薬物療法がどの程度必要かが分かる。精神科医にはその能力が不可欠」と強調する。
※つづく
WEDGE編集部(月刊「WEDGE」2月号特集記事)
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